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東京高等裁判所 平成5年(ラ)820号 決定 1993年12月24日

抗告人

森正彦

森芳久

亡森安正相続財産管理人

森正彦

右抗告人ら法定代理人親権者母

森純子

右抗告人ら代理人弁護士

岡村共栄

主文

一  本件抗告をいずれも棄却する。

二  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告申立書」記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  抗告人らは、民法九三二条による相続財産の競売(以下「相続財産の競売」という。)に民事執行法(以下「法」という。)六三条の規定(無剰余取消の規定)が適用されないことを前提として、原裁判所のした競売取消決定の取消を求めるものであるが、法一九五条は、相続財産の競売については担保権の実行としての競売の例による旨規定し、相続財産の競売についても何らの留保なく法六三条を準用しているから、相続財産の競売には無剰余取消の規定が適用されると解するのが相当である。

2  抗告人らは、相続財産の競売が無剰余で取り消された場合、限定承認者は、限定承認手続を終了させることができないことになり不都合であり、相続財産の競売には無剰余取消の規定が適用されない旨主張するが、限定承認の場合に先順位抵当権者等が自ら競売の申立てをしないのは、現状では被担保債権の十全な満足を得ることができないため当該相続財産の価額の値上がりを待っているなどの事情があることが通常であり、先順位抵当権者等の右期待を無視して、無剰余であるにもかかわらず、限定承認手続を終了させるためだけの目的で相続財産の競売を進行させることは相当でないから、所論は採用できない。

また、抗告人らのその余の主張は、いずれも独自の見解を前提とするものであって採用できない。

3  以上のとおり、抗告人らの主張は、いずれも理由がなく、本件記録を精査しても、他に、原決定を取り消すべき事由があるとは認められない。

よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官清水湛 裁判官瀬戸正義 裁判官小林正)

別紙執行抗告申立書

抗告の趣旨

原裁判所のなした競売取消決定を取消す。

抗告の理由

1 原裁判所は、申立人に対し「不動産の最低競売価格金三一、五五〇、〇〇〇円で、手続費用及び優先する債権金四九、二八〇、〇〇〇円(見込額)を弁済して剰余を生ずる見込がないので通知する」との通知を為し、ついで、民事執行法第六三条二項各号に定める申し出及び保証の提供がないとして、競売事件の取消決定を行った。

2 相続の限定承認手続は相続人全員による被相続人の債権債務の清算手続であり、相続人は相続財産の範囲で債権者に弁済をすれば被相続人のその余の債務の弁済は免れることとなっている。

民法第九三二条において、被相続人の債務を弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者はこれを競売に付さなければならないと規定している。無剰余ということで競売ができない場合、債権債務の確定ができず、限定承認者は限定承認手続を終了させることができないばかりか、相続人が限定承認の手続を行っている以上被相続人の債務を弁済する者はいないのであるから、抵当権者およびその他一般の債権者にとっても損害は増加するばかりである。

3 また、相続の限定承認の申立人である本件競売の申立人において、手続費用、優先債権の見込額を超える額を定め、民事執行法第六三条二項各号に定める申し出及び保証の提供を相続財産から支出したばあい、債権者の債権額に応じた配当率で配当弁済しなければならないところ、手続費用を超える部分について競売の目的物に抵当権を有する債権者のみを優遇することとなり、民法九三四条の不当弁済の責任を被ることとなる。

さらに、相続の限定承認の申立人である本件競売の申立人が自己の資金をもって前記の保証の提供をした場合、手続費用を超える部分について民法九二二条の規定に反することとなり、また、債権者の債権額に応じた配当率で配当弁済しなければならないところ、手続費用を超える部分について競売の目的物に抵当権を有する債権者のみを優遇することとなり、民法九三四条の不当弁済の責任を被ることとなる。

4 本件競売事件は相続の限定承認における形式競売事件であり、相続の限定承認による不動産競売事件について民事執行法第六三条の無剰余の適用は無いものと思料する。

従って、限定承認における形式競売の場合、無剰余であっても売却は認められるべきである。

5 申立人らは、限定承認による競売を長野地方裁判所においても行った(長野地方裁判所平成三年(ケ)第一九号)が、長野地裁においては、最低売却価格金一八、四〇〇、〇〇〇円、優先する根抵当権、抵当権の債権が金三七、〇〇〇、〇〇〇円(登記簿上、但し現実にも無剰余であった)で、やはり無剰余であったが、売却は行われた。

同一の事由によって裁判所によって違いが出るということでは申立人にとって法律の安定を欠くことになる。

よって、競売取消決定の取消しを求め執行抗告をする。

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